音楽が流れているだけの部屋で
部屋に音楽が流れている。
特別な曲じゃなくていいし、ちゃんと聴こうとしなくてもいい。
ただ音があるだけで、空間の輪郭が少しやわらぐ。
人は沈黙に慣れているようで、実はどこか落ち着かない。
音楽があると、考えごとの隙間が埋まっていく。
埋めるというより、散らばらせてくれる感覚に近い。
音楽は、励まそうとしない。
正解を差し出すこともしない。
それでも、気持ちが少し整っていくのは、理解しようとしない優しさがそこにあるからだと思う。
作業をしながら流していると、ふと手が止まる瞬間がある。
メロディの一部や、一行の歌詞が、今の自分に触れてくる。
意識して聴いていなくても、音楽はちゃんと届いている。聴くという行為は、集中だけでは測れない。
曲が終わっても、すぐ次を再生しないことがある。余韻だけが部屋に残り、さっきまであった音の気配を思い出す。
何かが解決したわけではない。それでも、呼吸が少し深くなっている。音楽は、何も変えないことで、今日をやさしく包んでいる。
